月夜見
 〜月夜に躍る]]Y

   “新月の夜陰に”



鉄道沿いの家々の特徴は、
瓦屋根が茶色っぽいことだと聞いたことがある。
まさかにそれだけのせいでもあるまいが、
ブレーキ操作されるレールから舞い飛ぶ鉄粉を
長年浴び続けてのこと、
線路沿いの家々の屋根に載ってる瓦は、
元は青だろうが赤だろうが、茶いろく変色するというのだ。
都市伝説にも及ばない代物だが、
その伝でいくなら、港町の特徴も似たようなもので、
長年晒されている潮風のせいで、
鉄製の柵やフェンスはすぐ錆びて脆くなるのだろうが、

 “まま、それなりの対策ってもんもあろうがな。”

錆どめの塗装とか金属系素材への更なる研究とか、
いっそのこと鋼鉄並みの強度をもつ樹脂系の素材で代替するとか。
ただそれだと、強度問題がどんなにクリア出来ても、
次には“火災への対処”という問題がついて回るのだとか。
多角的な思考を持たねば、
どんな盲点や死角を衝かれるか
判ったもんじゃあないのは何につけても同じらしくて。

 “腕に自慢の警備員を揃えたはいいが、
  そいつらが揃って あほうではな。”

どこの格闘界出身かというほどの豪傑揃いで、
侵入者への対処における英断も、
雇い主への利益優先という冷酷無比な連中だったが、

 “人は扉から出入りするもんだという
  お定まりな固定観念でいるようじゃあな。”

夜空に浮かぶ月はなく、
だが空は冴えており、星がよく見えて。
港からはやや離れた新興ビル街に林立中の、
いろいろと自動化の進んだ
新進のインテリジェントな摩天楼のうち、
貿易関係商社の持ちビルの一角が、
実に原始的な破損でもって、がこん・がらがらと砕け散る。

 「な…っ。」
 「あんなとっからっ!」

侵入は慎重に構えたので造作なくて。
目的の金庫を破った時点で警報が鳴り響いたため、
脱出はいつものように 迅速さが勝負と相成って。
詰め所から飛び出した警備員のデカブツが追って来るのへ、

 「てぇいっ!」
 「おっと。」

追いついた輩へは、振り落とされる拳をなめらかな足運びにて回避しつつ、
躱したことで振り向いたそのまま、
袈裟がけに降り抜く警棒での容赦のない打撃で応戦し。
それでもめげぬと食らいつく相手へは、

 「しつこい野郎は嫌われっぞ?」

腰から引き抜いた柔軟な素材の特殊鋼の刀、
ぶんと振り絞ることで大太刀仕様へ硬化させ。

 「峰だが痛てぇぞ、覚悟しな。」

片手でそこまでの重さを乗せられるかという、脅威の切れ味。
遠心力を上乗せしての薙ぎ払い、
人体は深々と叩かれるだけだが(…だけ?)
柔軟性の足らぬ壁材は抉られる斬撃をお見舞いし、
片っ端から蹴散らし突破する。
資料室と銘打ってた広いフロアでの鬼ごっこの中継地、
50階もを上り下りするリフトの1つへ飛び込んで、
それで一気に地上を目指した不審な侵入者を相手に、

 『エレベーターホールを固めろっ!』
 『停めちまわねぇんで?』
 『それじゃあ途中の階で勝手をされる。』

こちらの一団が駆けつけたところで止めたとて、
万が一 突破されたらどうなるか。
その階でまたぞろ細かい鬼ごっこで引っ張り回されの、
ビルのあちこちを壊されのするよりも。
いっそ一気にここへとお招きし、
引きずり出してやって固め打ちで昇天させれば手っ取り早いと。

  合理的な策を構えたつもりだったかもしれないが

そんなにも長時間、ゲージの中で大人しくしているようでは、
それこそ素人同然じゃあありませんかと。
落下衝撃には強い構造かも知れないが、
軽さを追及するあまり一点集中には脆い素材だろうと推測し、
気合い一閃、天井へ振るった一閃で穴を開けると、
そこから降下中のゲージの天井裏へと移動をし、
リフト空洞を取り巻く基礎部の鉄骨へワイヤーをかけて、
おさらば・さらばとゲージを見送る。
あとはもう、どっから出てもいい“お任せ”と来て。

 “ほんじゃあまあ、此処からにすっか。”

創業者の像とかいう、
やたらに福々しい笑顔の
腹の出たおっさんの銅像がある壁と向かい合い。
一旦 仕舞っていた大太刀を構えて腰に。
がっしと床をかかとで噛みしめ、
重厚な構えから飛び出したは、ほとびる銀の目映き閃光。
居合いの一種の据えもの斬りにて破砕して、
自前の出口を作ると
そこからまんまと脱出する手際も鮮やかなれど、
彼にしてみりゃ手慣れたそれだ。

 この港町にて、秘密裏に暗躍し、
 その痛快な活躍をもって、
 半ば公然とその名も知れ渡っておいでの
 怪盗“大剣豪”。

泥棒は泥棒だからと、
正義の名の下にどうとかとかいうつもりはまるでなく。
侵入先でも逃走の途中でも、物を壊すことへの躊躇はないし、
抵抗の手がすべってのこと、
警備会社から派遣された善良なガードマンさんを
完膚無きまで叩きのめすことも多かりしな荒くれだし。

 「待てやっ!」

ピシ…ッと、詰まったような音とともに
夜陰を切り裂いて飛んで来た疾風は、
サイレンサーつきの銃で打ち出された弾丸に違いなく。
頬すれすれを掠めた物騒な飛び道具の登場へ、

 “ありゃまあ、そんなものまで持ち出すかね。”

口許の片側だけを引き上げる、何とも精悍な苦笑を浮かべると。
大きなストライドで なだらかな坂を駆けていたその傍ら、
停車中のそれは大きなコンテナトラックへ、
すれ違いざまにポンと、ハイタッチよろしく車体を叩いたところが。

 「………え?」
 「なんだ?」

どういう細工をしてあったものか、
二車線道路の7割ほどを塞いでた、
道幅ぎりぎりというほどもの大きなトラックが
徐々に加速しつつ坂道をすべり降りて来るものだから。

 「なっ!」
 「あれってどこのだよっ!」
 「今そんな言ってる場合かっ!」

そう、こんなでっかい不審車を放置するとは、
事前の警戒が薄かった証拠だから、以後気をつけるように
…との余計なお世話こそ告げなんだが。
あちこちで あとちょっとの詰めが甘い連中だったのへ、
やれやれとの苦笑を一つ。
ギャアー正面玄関へ突っ込んだぞ、
誰か何とかしろ、社長へ連絡だ…との
聞くに堪えない雄叫びばかりが反響し、
もはや追う者もなくなった夜の帳の中へ、
霞のように気配を消してしまった怪盗は、
また一つ、伝説を作ってしまったようでございます。






  …………………とはいえ。


依頼されてた小さなカメオのブローチと、
それが目的だったと判っては意味がないからと、
ついでに掠め盗って来たオパールコレクションと、
何故か一緒に仕舞われてあった帳簿とを。
下町のグリルバー“バラティエ”で仲介役のナミへと渡し、
そろそろ夜が明けるんじゃないかという未明の町を、
打って変わって、一切緊張感のない
ぞろりとした歩調で歩いてアパートへ帰り着けば、

 「…………っ!」

不意に垂れ込めた何かの気配、
仄かな火薬の香りも届いて、
サッと仕事中の緊迫が舞い戻るところはおサスガだったが、

 「ゾロっ、誕生日おめで…っ」

 「やめんか、夜中に

自宅のドアを素早く切り裂いて取り払い、
その内側で、大型クラッカーを半ダースほど構えていた
顔見知りの坊ちゃんの手を取っ捕まえて、
轟音放つところだったのを制止出来たは重畳だったが、

 がらん・ごろん、がたごとと、

ドアの端材が鉄製のステップにばら撒かれ、

 「うるっせぇぞっ。」
 「まーた、ゾロんとこかい?」

怒号や不満声と共に、
周辺のお宅の明かりがパパパッと一斉に灯った辺り。

 「…ゾロ、詰めが甘いぞ。」
 「お前に言われたくはないわい

せっかく決めて帰って来たのに、これではね。
とりあえず、
ルフィ坊ちゃんが作ったらしい特製ケーキでも食べて、
まずはの仮眠を取りなさい。


  あ、そうそう

   
HAPPY BIRTHDAY! TO ZORO!





   〜Fine〜  12.11.10.


  *こちらも久々?の怪盗“大剣豪”でした。
   活劇を書くのに気を取られて、あんまり祝ってないな、
   ルフィもちらっと最後しか出て来なかったし。
   すまんすまん。(おいおい)


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めーるふぉーむvv

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